Moonlight Roses
あの男は狂っている 早くここから逃げなくては
甘い煙に煽られて、私が私でなくなる前に
ここは一体どこなのか?私の他にも女はいるようだ
それぞれの個室には鍵がない
しかし、なぜ誰も逃げようとしないのか
あの男は、なぜか私にだけ優しい言葉をくれる
私は昨日の夜のことを思い返していた
密かに、声を押し殺して 執拗な舌先に弄(あそ)ばれ
しなやかな指先が私の孤独や恐れを忘れさせる熱帯夜
あの男は言った 私だけが愛するに値すると
そういえば他の女はどうなったのか?
きっと今頃、無惨に殺されてバラバラだろう
何とも憐れなり、憐れなり
私は咲き誇った薔薇たちを観に、他の部屋を覗いた
あの男と知らぬ女、愛し合う肢体————。
駆け巡る衝動に任せて、切り刻んで宙舞う薔薇、薔薇
血の滲む傷痕が私の孤独や恐れを忘れさせる熱帯夜
薔薇が敷き詰められた小部屋にひとり
あの男は狂っていた 私は今、孤独だ
密かに、声を押し殺して 執拗に指先を這わせて
月明かりに照らされてひとり 昇り詰めて薔薇が咲き誇る熱帯夜